金継ぎに必要な道具と材料

Necessary Tools and Materials for Kintsugi

金継ぎのやり方は人によって異なり、必要な材料も人によって少しずつ変わってきます。

そのため、ネットで検索したり本を読んで勉強していくほど、結局何が必要なのか分からなくなっていく、というのが金継ぎビギナーのあるあるなんじゃないかと思っています。

そこで、この記事ではよく使われる材料をリストアップして、それぞれの用途や代替品についてまとめてみようと思います。

ただし、ここでは伝統的な金継ぎの場合を想定しており、簡易金継ぎの場合は必要なものが大きく異なるのでご注意ください。

 

金継ぎに必要な材料

最低限必要なものを書き出してみました。

後でも説明しますが、別の材料で代替できるものもあります。

また、本当に最低限のものだけを紹介しているので、より質の高い修理をしようと思うと、さらに多くの材料を使うことになります。(この記事では割愛します) 

 

必要な材料

  • 生漆
  • 小麦粉
  • 砥粉
  • こくそ綿
  • 弁柄漆
  • 金粉
  • 真綿
  • エタノール
  • 植物油

 

必要な道具

  • 耐水性の手袋
  • 作業台
  • ヘラ
  • マスキングテープ
  • カッター
  • ダイヤモンドヤスリ
  • 耐水ペーパー
  • ティッシュ
  • 器を保管する小さい箱
  • 加湿用のタオルなど

 

金継ぎをしようと思うと、最低限これだけの道具や材料が必要になります。

次に、それぞれをどのような用途で使うのかを解説していきます。

 

生漆

金継ぎで最も重要な素材で、その正体は漆の木から採取した樹液です。

空気中の水分に触れると硬化反応が起こり、堅牢な樹脂となります。

 

用途

  • 麦漆の材料(接着に使う)
  • 錆漆の材料(継ぎ目の溝埋めに使う)
  • こくそ漆の材料(欠け埋めに使う)
  • ヒビを埋める

樹脂化する時の接着力や堅牢性に優れているので、麦漆や錆漆といった修理材の母体として使うことが多いです。

 

代用できるもの

  • なし(強いていえばエポキシ樹脂)

漆は非常に特殊な性質を持つ物質なので、基本的には他のもので代用することはできません。

直接生漆の代わりになるわけではありませんが、生漆から作られる麦漆や錆漆の代わりにエポキシ樹脂を使うことはできると思います。

ただ、このあたりは簡易金継ぎの領域になってくるので、ここでは割愛します。

 

 

小麦粉

小麦粉にもいろいろ種類はありますが、薄力粉でも中力粉でも強力粉でも修理はできます。

うちでは薄力粉を使っていますが、自分が使い慣れているからという理由だけで特別こだわりはありません。(ちなみに薄力粉が一番接着力が強いという論文もあります)

 

用途

  • 麦漆の材料(接着に使う)

小麦粉の出番は、接着の工程で生漆と混ぜて麦漆を作る時のみです。

生漆単体でも接着はできなくはないですが、小麦粉と混ぜてペースト状にすることで粘り気が出て作業性が増します。

他にも様々メリットデメリットあるのですが、それはまた別のブログに書きます。

 

代用できるもの

  • 米糊

金継ぎの接着工程では「麦漆」のほかに「糊漆」を使う手法も存在します。

麦漆は小麦粉を使い、糊漆では米糊が使われます。

具体的には上新粉や白玉粉、もち粉などを使った糊と生漆を混ぜて「糊漆」作ります。

自分で細かく実験したわけではありませんが、色々見聞きしている感じでは麦漆の方が接着剤としては優れているように思います。

 

 

砥粉

「とのこ」と読みます。

簡単にいえば、岩石を非常に細かい粉末状にしたものです。

金継ぎで「砥粉」というと京都の山科で作られるものを指すことが多いです。 

 

用途

  • 錆漆の材料(継ぎ目の溝埋めに使う)
  • こくそ漆の材料(欠け埋めに使う)

生漆はその性質上、厚塗りするとうまく固まらず、そのままでは継ぎ目の凹みを埋めるのに使えません。

対して、生漆に砥粉を混ぜてかさ増しした「錆漆」や「こくそ漆」は多少厚塗りしてもしっかり固まるので、継ぎ目の溝埋めに使うことができます。

 

代用できるもの

  • 錆土

「錆漆」に砥粉が使われる理由には、目が細かく生漆と馴染みが良いという点と、主成分がシリカであり、硬化後も堅牢性が高いという点があります。

逆に言えば、これらの条件を満たしていれば他の土でも概ね問題ないということになります。

具体的には鉄分を多く含むという木曽の錆土などが有名です。

 

 

刻苧綿

「こくそわた」と読みます。

綿や麻などの繊維が粉末状になったものです。

錆漆などの母体となるペーストに少量添加することで強度が増し、厚塗りしてもしっかり固まるようになります。

 

用途

  • 刻苧漆の材料(欠け埋めに使う)

刻苧漆はかなり多くの作り方があり、それだけで1つの記事が書けてしまうほどです。

基本的には「砥粉」や「小麦粉」に「生漆」加えてペースト状にし、そこへ「刻苧綿」など、何かしらの繊維を加えたものが「刻苧漆」と呼ばれます。

やや厚めに塗っても固まるので、欠けを埋めるときに使われます。

 

代用できるもの

  • 木粉

刻苧漆」の材料としては、綿や麻以外にも、繊維質な素材の1つとして「木粉」がよく使われます。

例えば、「麦漆」に「木粉」を混ぜて作る手法もあれば、「糊漆」に「木粉」と「刻苧綿」を加えて作る手法もあります。

 

ただ、個人的には「木粉」を混ぜる手法はあまりオススメしていません。

実験してみると、「木粉」を混ぜて作る「木屎漆」は経年で剥がれやすい傾向がありました。

木材の種類や目の細かさでも変わってくるとは思いますが、他の金継ぎ師さんでも同じ主張をされている方がいらっしゃったので、剥がれやすい傾向はあるんだろうと思っています。

元々は木地に対して使われていた漆塗りの手法をそのまま陶磁器の修理に転用したのが金継ぎなので、今でも細かく見ると陶磁器に最適化されていない手法が残っているのではないかと睨んでいます。

 

 

弁柄漆

生漆から水分を蒸発させ粘り気を出し、赤い顔料を加えて練ったものが弁柄漆です。

 

用途

  • 下塗り(継ぎ目のコーティング)
  • 中塗り(継ぎ目の細かな凹みを埋める)
  • 上塗り(金粉を蒔く下準備)

錆漆などで大まかに継ぎ目の溝を埋めた後に残った細かな窪み等を埋める、下塗り・中塗り等の工程で使います。

生漆と違って粘り気があるので、多少の窪みなどは埋めることができます。

また、仕上げの金粉を蒔く前にも弁柄漆を使います。

 

代用できるもの

  • 黒呂色漆(下塗り・中塗りのみ)

下塗りと中塗りは継ぎ目のコーティングと凹みを埋めるのが主目的なので、黒呂色漆などの水分量の少ない他の漆でも代用することができます。

とても大雑把に言えば、黒呂色漆と弁柄漆は、色が違うだけです。(本当は精製方法などが少し違います)

むしろ、下塗りや中塗りは、黒呂色漆で作業することで、上塗りで赤い弁柄漆を塗る際に塗り残しが見えやすくなるので、可能であれば黒呂色漆を使った方がよいでしょう。

 

ただし、上塗りに関しては赤い色味の弁柄漆の方が適しています。

下地が赤いと、その上に乗る金粉の発色が良くなるためです。

そのため、上塗りを黒呂色漆で代用するのはあまりおすすめしません。

 

 

金粉

継ぎ目を金色に装飾するために最後の工程で使います。

金継ぎで使う金粉は基本的には純金です。

ただ、色味の調整のために微量に銀や銅が混じっている場合もあります。

 

用途

  • 継ぎ目の装飾

継ぎ目に弁柄漆を塗り、その上に金粉を蒔くことで継ぎ目が金色に装飾されます。

 

代用できるもの

  • 真鍮粉など

金粉は最後の装飾として使うのみなので、色味が似ている真鍮粉などで代用することができます。

ただし、粒子の細かいものを選ばないとざらっとした見た目・質感になるので注意しましょう。

また、純金と違い、真鍮は経年で色がくすんでいくので、その点も注意が必要です。

真鍮粉の他にもマイカパウダーなどを使うという手もあります。

 

 

真綿

真綿と書きますが、実際は絹でできています。

綿状になっているので、慣習で真綿と呼ばれているようです。

 

用途

  • 継ぎ目の装飾

金粉を継ぎ目に付着させる工程で必要になります。

丸めた真綿に金粉を含ませて優しく継ぎ目に乗せていくように使います。

 

代用できるもの

  • なし

真綿に関しては、あまり他のもので代用するような手法を見かけません。

 

 

エタノール

エタノールとはアルコールの一種です。

身近な例でいうと、アルコール消毒液に含まれているのもエタノールですし、一般的なお酒に含まれているアルコールもエタノールになります。

有機溶剤としての一面もあり、金継ぎではこちらの側面を活用します。

 

用途

  • 漆の拭き取り

漆は水や石鹸では十分に洗い流すことができません。

そこでエタノールを使って漆のついた道具などを掃除します。

濃度は高い方が洗浄力が強いので、可能であれば純度100%に近い「無水エタノール」を選ばれることをおすすめします。

 

代用できるもの

  • メタノール
  • アセトン
  • IPA(イソプロピルアルコール)
  • テレピン油
  • 樟脳油

漆の洗浄に関しては代用できるものが多くあり、これら以外にも金継ぎ師の方によって使うものが様々ありますが、基本的にはどれも有機溶剤です。 

個人的には、ここで大切なことはそれぞれの危険性を十分に把握しておくことだと考えています。

例えば、「メタノール」と「アセトン」と「IPA」は第2種有機溶剤に、「テレピン油」は第3種有機溶剤に指定されており、その毒性の強さから使用上の制限が定められています。(数字が小さい方が危険性が高い)

特に「メタノール」は「エタノール」と名前は似ていますが、毒性が桁違いなのでよく確認して購入するようにしてください。

 

漆芸の世界において有機溶剤は、洗浄だけでなく「漆の薄め液」としても使われています。

溶剤の種類によって揮発速度や仕上がりが異なり、使い分けが生じた名残で、様々な溶剤が使われているものと思われます。

金継ぎにおいては初心者が漆を薄めて使うことはないと思うので、特に理由がなければ、比較的安全なエタノールを使うと良いかと思います。

 

 

植物油

サラダ油や菜種油など、ご家庭にある一般的な植物性油で構いません。

 

用途

  • 漆を塗った筆の洗浄

 

ほとんどの道具は先述したエタノールのみで洗浄しますが、漆を塗った筆だけは植物油も併用します。

植物油を使うことで保管中に筆先が固まってしまうことを防ぎます。

 

代用できるもの

  • なし

 

 

耐水性の手袋

漆は皮膚に付着すると酷くかぶれる場合があるので、作業中は必ず手袋をつけるようにしましょう。 

ニトリル手袋が薄くて作業しやすいのでおすすめですが、ゴム手袋でもよいです。

肌の弱い方や服への汚れが気になる方はアームカバーもあるとなお良いでしょう。

 

作業台

アクリル板やガラス板など、平らで水を弾くものが使いやすいと思います。

大きさも10cm×10cmくらいで十分です。

 

 

ヘラ

麦漆や錆漆といったペーストを扱うときに使います。

練るときは少し大きなものを、継ぎ目につけるときは細いものを使うと作業しやすいかと思います。

 

 

伝統的にはネズミの毛などを使った蒔絵筆を使いますが、初心者の方は市販されているナイロンの筆でも十分作業できます。

先が細く、穂が長すぎないものが使いやすいと思います。

余力があれば、小さな平筆も用意しておくと、少し面積の広い場所も塗りやすくなります。

 

 

マスキングテープ

修理品の素地を漆汚れから守ったり、接着中の破片を固定するときに使用します。

3Mの243Jシリーズが、耐水性や粘着力が程よく使いやすいと思います。

雑貨屋にあるようなマスキングテープではその辺りが弱いことが多いです。

 

カッター

硬化後の麦漆や錆漆を削るのに使います。

刃が直線の通常のカッターでは、器の曲面を削りづらいので、デザインナイフに曲線刃を取り付けて使うのがおすすめです。

 

ダイヤモンドヤスリ

接着前の破片の面取りをするときに使います。 

市販されているものの多くは目が荒くバリが出るので、面取りに適していません。

#400以上の番手のものを選ぶと良いでしょう。

形は半丸のものがおすすめです。

 

耐水ペーパー

硬化後の錆漆や刻苧漆を削るときに使います。

番手は#800くらいで十分です。

錆漆や刻苧漆は湿らせると柔らかくなって削りやすいので、普通の紙やすりよりも水研ぎできる耐水ペーパーの方がおすすめです。

 

ティッシュ

主にエタノールを含ませて漆を洗浄する際に使います。

市販されているものなら、どれを使っても問題ありません。

 

器を保管する小さい箱

作業後に器を加湿しながら保管するための箱を用意しましょう。

箱の容積が小さいほど、湿度を高い状態で維持しやすくなります。

器自体が大きい場合も、できるだけ器に近いサイズのものを選びましょう。

容器内部の酸素量も重要なので、完全に密封される容器よりも、多少通気性がありつつも密閉性も確保できる段ボールなどがおすすめです。

 

加湿用のタオルなど

箱の中の湿度を高く保つために、濡れタオルなどを箱の中に入れておきましょう。

箱のサイズが大きい場合は、電気を使わない気化式の加湿器を使うのも有効です。

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