漆とは?
伝統的な金継ぎでは主に漆を使って修理を行います。
漆とは「Toxicodendron vernicifluum」という樹木の樹液のことを指し、この樹液を漉してゴミを取り除いたものを「生漆」と呼びます。
漆には「生漆」以外にもたくさんの種類がありますが、全てはこの「生漆」を加工して作られます。
例えば、金継ぎで使う「弁柄漆」は、「生漆」の水分量と粒子の細かさを調整する精製作業を行い、そこに赤い顔料を加えることで作られます。
漆の性質
漆には湿度がないと乾かないという変わった特性があります。
正確には乾いているわけではなく、空気中の水分から酸素を取り込むことでゆっくりと硬化反応が進み、強固な樹脂となっているのです。
一般的には温度が25度、湿度が75%前後に保たれている時に最もよく硬化反応が進むと言われています。
この性質により、室温でも非常に堅牢な修理を行うことができるのです。
ただし、完全に硬化するまでには時間がかかります。
例えば下塗りで使う黒呂色漆であれば早くとも8時間、麦漆など厚みを伴う場合などは1週間ほどかかるのが通常です。
また、漆は採取した地域、時期などによっても性質が微妙に違ってきますので、漆のペースに合わせてゆっくりと修理を進めていくことが大切になってきます。
漆の歴史
漆の歴史は長く、今から7000年以上前の縄文時代には、漆を活用した日用品が制作されていたことがわかっています。
その後、中国から漆を使った仏具などが輸入され、工芸品や装飾品としての漆器制作が盛んになると同時に漆芸技法も徐々に発展していきました。
こうして蓄積された漆芸の技術を修理技法として転用したものが金継ぎです。
例えば、金継ぎで作る「麦漆」「こくそ漆」「錆漆」は全て漆芸で使われていたものですし、最後に継ぎ目に金粉を蒔く工程も、蒔絵の技法が基になっています。
漆芸技法がこれほどまでに深く発展してきた歴史があるからこそ、金継ぎという技法が編み出されたのだと言えるでしょう。
漆かぶれについて
漆の唯一の厄介な点は「かぶれる」ということです。
人によっては耐性があり、触っても全くかぶれないという方も少なくないですが、マンゴーなどのウルシ科の植物などでかぶれるという方は、漆への耐性も乏しいことが多いようです。
基本的には液体の状態の漆が皮膚に触れるとかぶれが発生するのですが、漆はわずかに気化することが知られており、この気化した漆を吸っただけで全身に炎症が出たというケースも存在します。
また、日本人に比べて欧米の方は体質的に漆にかぶれやすい人が多く、重度の炎症が発生するケースが多いという調査結果もあるようです。
逆に、一度硬化してしまえば、漆に触れてもかぶれることはありませんので、修理後の器に関しては安全に使用することができます。
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