金継ぎではさまざまな道具を使いますが、長く使い続けるためには適切に扱ってあげる必要があります。
この記事では、金継ぎで使った道具の洗い方や保管方法について紹介したいと思います。
漆汚れは水では拭き取れない
金継ぎではどの工程でも漆を使いますが、漆は油性成分が含まれているため、水だけで洗い流すことができません。
そこで、漆のついた道具は揮発性の油やアルコールを使って洗浄します。
揮発性油だとテレピン油がよく使われます。
アルコールだとエタノールやメタノールを使うケースが多い気がします。
漆の洗浄には「エタノール」がおすすめ
揮発性油でもアルコールでも漆は洗浄できますが、おすすめは「エタノール」を使うことです。
その理由は安全性にあります。
揮発性油やアルコールの多くは、人体に有害な有機溶剤に分類されます。
常温で気化するものが多いので、知らず知らずのうちに空気中から体内へ摂取してしまい、健康被害に繋がる場合があります。
例えば「メタノール」は劇物扱いとなり、摂取すると失明のリスクがあるため、漆の洗浄液として使う場合は細心の注意が必要になります。
また、手に入れやすいアルコールとして、薬局などでは消毒用IPA(イソプロピルアルコール)が販売されていますが、こちらもエタノールとは違い、有毒なため口に含むことはできません。
テレピン油も同様に、摂取すると臓器不全などのリスクがあるため、もし使う場合はしっかり換気を行うことが大切です。
対して「エタノール」は一般的なお酒にも含まれているアルコール成分で、他の有機溶剤に比べて摂取に伴うリスクが低いという特徴があります。
そのため、漆の洗浄液として使用する場合は、エタノールを使用するのがオススメです。
エタノールの濃度で洗浄力が変わる
ひと口にエタノールと言っても、実際にはさまざまな濃度のエタノールが販売されています。
こと漆の洗浄液として使う場合には、できるだけ濃度の濃いものを使った方が汚れがよく落ちます。
一般的に販売されている消毒用エタノールとなると、濃度が80%前後のものが多いですが、私は無水エタノールという、ほぼ純度100%のエタノールを使用しています。
80%でも十分濃度が高そうに思えますが、漆の洗浄力という観点から見ると、少し物足りないなと感じることが多いので、可能であれば無水エタノールを利用されることをオススメします。
筆は植物油も使う
ヘラや作業台などについた漆はエタノールで拭き取れば十分ですが、筆だけはエタノールで拭き取るだけでは不十分です。
というのも、少量でも拭き残しがあれば筆先で微量の漆が硬化してしまい、筆が使えなくなってしまうケースがあるためです。
そこで、筆だけはエタノールを含ませたティッシュで拭き取った後、さらにサラダ油や菜種油などの植物油をアクリル板に出し、「筆を油に浸す→ティッシュで拭く」を繰り返してティッシュに色が残らなくなってきたら、筆先に少し油が残った状態のままキャップをして保管します。
漆は油が混じると固まりづらくなるという性質があります。
筆先に油を少し残しておくことで、仮に微量に漆が残っていたとしても、この性質のおかげで筆先が固まらずに済みます。
ただし、次筆を使う時には筆先に残っている油をエタノールを含ませたティッシュでしっかり拭き取るようにしましょう。
作業する筆に油が混ざっていると、今度は塗った漆が固まらなくなってしまいます。
同じ理由で、筆を洗った後のアクリル板も油が残らないようにしっかりエタノールで拭き取るようにしましょう。
あしらい毛棒はアルコールで拭き取るのみ
ただし、筆の中でもあしらい毛棒は油で洗う必要はなく、エタノールを含ませたティッシュで毛先を拭き取るだけで十分です。
むしろ油で洗ってしまうと毛先から油分を除去することが難しく、金粉をはらうという役割を果たせなくなってしまいます。
油で洗うのは漆を塗るのに使用する筆のみです。
漆は冷暗所で保管する
道具ではありませんが、漆のチューブも保管に少し注意が必要です。
漆に含まれる成分の1つにラッカーゼという酵素があります。
この酵素の働きによって漆の硬化反応が起こります。
金継ぎで温度と湿度を適切に保つ必要があるのはラッカーゼが、25度前後・湿度70〜80%という環境で最も力を発揮するからです。
しかし、温度管理が必要なのは作業する時だけではありません。
ラッカーゼは40度以上になると失活してしまうため、例えば直射日光の当たる場所などに漆のチューブを置いておくと、ラッカーゼが失活してしまう可能性があります。
ちなみに、失活とは酵素(タンパク質)が高温によって変性してしまい、本来の機能を失ってしまうことを意味します。
ラッカーゼが失活してしまった漆はどれだけ加湿しても固まることはありません。
そのため、漆を長く使うためにもチューブを保管する際は、高温環境を避け、冷暗所で保管することをオススメします。(低温環境では失活しないので冷蔵庫で保管しても大丈夫です)
真綿は捨てずに保管する
金粉を蒔くのに使った真綿は使い捨てではありません。
真綿に金粉が付着して色が付いていても、次回別の器を金継ぎするときにもう一度同じ真綿で作業することができます。
ただし、別の種類の粉(例えば銀粉など)を使って仕上げる場合は、粉が混ざってしまうので別の真綿で仕上げるようにしましょう。
使い方にもよりますが、真綿の表面に漆が付着して汚れてしまったり、毛羽立ちが目立って平らな面を作って蒔き詰める作業ができなくなってきているのであれば、新しいものに交換した方が良いかもしれません。
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